「さ……流石に買いすぎだろ……」
ここに越してきた時でも、ここまで買い物をした記憶はないぞ。
そう思いながら悠人が鍵を開けようとした時、ドアの隙間に挿してある一枚の紙に気付いた。宅配便の不在表で、家に入り連絡すると、15分ほどして業者が荷物を持ってきた。荷物はダンボール二箱と、細長く厳重に梱包された筒状の箱だった。
ダンボールには小鳥の服、その他もろもろの日用品が入っていた。
「女子にしては少ない荷物だな。まぁ3ヶ月だからこんな物か……で、これは何なんだ?」
「ふっふーん、これはね」
そう言って小鳥が筒状の梱包を外していくと、中から三脚と望遠鏡が出てきた。
「結構高そうなやつだな」
「これは小鳥がバイトしまくって買った宝物。悠兄ちゃんの天使の次に大切なものなんだ。悠兄ちゃんと一緒に星が見たかったから、これは持っていこうって決めてたんだ。でもね、そのつもりだったんだけど……
ここって星、ほとんど見えないんだね」「昔はもう少し見えてたんだけどな、街が明るくなりすぎたから。過疎ってきてるとはいえ、これでも都会なんだよな。
ま、3ヶ月ここにいるんだから、そのうち山にでも連れていってやるよ」「楽しみにしてるね。でも悠兄ちゃん、春先でこんなんだったら、夏なんて見える星ないんじゃない?」
「間違いなく見えるのは、月ぐらいかな」
その言葉に反応した小鳥が、
「月って言えば……」
そう言ってダンボールの中に手を入れ、冊子のような物を取り出した。
「じゃーん!」
「だから……じゃーんなんて擬音、リアルで口にするやつはいないぞ……ってこれ」
それは月の土地権利証書だった。
「お前、月の土地持ってたのか」
「悠兄ちゃん、ここここ。ここ見てよ」
小鳥が指差すそこは権利者の欄だった。そこには悠人の名前が記載されていた。
「俺の土地なのか?」
「悠兄ちゃん、小鳥に約束してくれたでしょ? 大きくなったら小鳥と結婚して、月で一緒に暮らしてあげるって。だから小鳥、未来の旦那様の名義で買ったんだ」
「なんとまぁ、5歳の時の約束をしっかり覚えていたとはな。ちょっと待ってろ」
悠人は笑って立ち上がり、洋間に入っていった。ごそごそと音がしてしばらくすると、小鳥が手にしているのと同じものを持ってきた。
「ほら」
「え……?」
悠人が開いたその権利証書には、小鳥の名前が記載されていた。
「悠兄ちゃん……」
「なかなか面白いイベントになったな」
そう言って悠人が笑った。
「……」
悠兄ちゃんも約束、覚えていてくれたんだ。
小鳥の胸が熱くなった。「ではお互い、贈呈式を」
悠人がそう言って小鳥に権利証書を渡す。
「……ありがとう、悠兄ちゃん」
権利証書を抱きしめる小鳥。そして小さく肩を震わせた。
その小鳥の頭を、悠人の大きな手が包み込む。 あたたかい感触。あの時と同じ、忘れたことのないぬくもり。「悠兄ちゃん!」
小鳥は悠人に抱きつき、胸に顔を埋めた。
「甘えん坊なところは、あの頃のまんまだな」
そう言って、悠人が小さく笑った。
* * *その後服を片付ける為、悠人は洋間に小鳥を入れた。
四畳半の洋間の扉を開けると、目の前の壁一面に黒い本棚が並び、アニメと映画のDVD・ブルーレイが所狭しと並べられていた。「すごいね、この部屋」
「ま、二軍だけどな。一軍は和室にいてるやつら。とにかくここはほとんど使ってないから、好きに使っていいよ」
生活臭のしない部屋。おそらくここは、悠人にとって倉庫なんだろう。そう小鳥は思った。
しかし見事に整理されており、掃除も行き届いていた。その几帳面さに小鳥は驚いた。向かいの壁には黒の三段ラックが五つ並んでいた。その上に飾られているフィギュアを見て、小鳥がはっとした。
それは悠人手作りの、小百合と小鳥のフィギュアだった。 手をつないで歩いているもの、ブランコの小鳥を押している小百合。そしてベンチに座る小百合の膝で眠る小鳥。「手慰めって言うか……まぁ楽しかった思い出を残しておきたかったんで……な」
照れくさそうに悠人が笑う。小鳥は両手を口に当ててつぶやいた。
「小鳥とお母さんの……大切な思い出だ……」
* * *夕食を終え、洗い物を一緒に済ませると、
「風呂、先に入っとけよ」
ジャージに着替えた悠人がそう言った。
「悠兄ちゃん、どこか行くの?」
「日課のウオーキングだよ。昨日はバタバタして出来なかったけど、基本毎日一時間ぐらい歩いてるんだ」
「小鳥も連れてって!」
小鳥が洋間に入り、同じくジャージに着替えて現れた。
* * *悠人はいつも入浴前に、マンションから見下ろせる川の堤防沿いを、1時間ほどウオーキングしていた。1年間で休日を30日と決め、雨や体調不良だった時を考慮して、年の前半はなるべく休みなく歩くようにしていた。
堤防沿いを悠人と小鳥が歩く。かれこれ3年も続けているので、結構なスピードで歩いているのだが、そのペースに小鳥も続いていた。
驚いたのは、小鳥の息がほとんどあがっていないことだった。さすが中学時代、陸上部部長だっただけのことはあるな。そう思い感心した。小鳥が空を見上げると、雲ひとつない天気なのにも関わらず、ほとんど星が見えなかった。
「本当に星が見えないね」
「そうだな。条件がよくてもこの辺じゃ、冬に1等星が2~3個見えるのが関の山だからな。オリオン座すらまともに見えないよ」
「じゃあ夏なんか、ほんとに見えないよね」
「ああ」
「小鳥の家からだと満天の星空。でもここだと、その星が全然見えない……宇宙には無数の星があって、間違いなくその光が届いてるはずなのに、この場所からはそれが見えない。
小鳥たちからしたら、それは存在してないのと一緒たって話、悠兄ちゃんは知ってる?」「聞いたことぐらいはあるけど……星がある事実は変わらないだろ」
「……見る人がいなかったら存在しないんだ、って言う人もいるんだ。でね、その話を聞いた時に思ったことがあるの。
もしこの世から、小鳥を知る人が一人もいなくなってしまったら。小鳥はここにいないのと同じになっちゃうのかなって」小鳥がうつむき、小声でそうつぶやく。歩く速度も心なしか落ちていた。
「……お前、小百合と同じで頭いいんだな。で、頭いい分、俺らバカが悩まないことで悩む」
「……」
「大丈夫だよ」
「え……?」
「どこにいたってお前のこと、俺がいつも思ってるから。今までもそうだっただろ?」
「悠兄ちゃん……」
「誰がお前のことを忘れても、俺だけは覚えてる。だから大丈夫だ」
そう言って悠人が、小鳥の頭に手をやり荒々しく撫でた。
「うん……えへっ」
「いや、だから……『えへっ』も普通口にする言葉じゃないから」
* * *小鳥が洋間で、丸テーブルの上にノートを広げていた。中には、小鳥が悠人と叶えたい望みが書かれてあった。
『月の土地のプレゼント』の項に今日の日付、そして赤で花丸をつける。願いが叶ったら花丸をつけていくルールだった。
「今日はたくさん花丸をつけられるな」
嬉しそうに笑いながら、小鳥が他の項目にも花丸をつけていく。
『一緒に買い物』
『手作りハンバーグでうまいと言わせてみせる』そして最後の項目には『悠兄ちゃんと結婚』、そう書かれていた。
* * *悠人が寝る前の煙草をくわえ、白い息を吐きながら考えていた。
明日一日で、小鳥が生活出来るように用意しとかないと。とりあえず起きたらまず、「ジェルイヴ」の鑑賞会。
小鳥がヲタクになるとは、小百合も誤算だったろうに。そこまで思って悠人の脳裏に、もう一人身近で知っているヲタクの顔が浮かんだ。
「……そういや明日の夜、弥生〈やよい〉ちゃんが帰ってくるんだったっけ……小鳥のこと、どう説明するかな……」
「疲れた……今日が一番疲れた……」 風呂上がり。コーラを飲みながら悠人〈ゆうと〉がうなだれた。 明日でゴールデンウイークも終わり。こんなに濃い休みは初めてだった。「明日こそはゆっくりするぞ。そうだ、アニメもたまってるしな」「悠兄〈ゆうにい〉ちゃーん!」 風呂上がりの小鳥〈ことり〉が、背中に抱きついてきた。「おつかれさま。明日はゆっくり出来そう?」「ああ、ちょうど今、そう思ってたところだ。明日は一日、ゴロゴロしながらアニメ三昧しようかと」「小鳥も付き合うね」 その時、悠人のスマホにメッセージが入った。「誰から?」「ああ、深雪〈みゆき〉さんからだ。明日深雪さんの家で、みんなで夕食一緒にどうかって」「あはははっ。深雪さんも私たちの関係、楽しんでるよね」「だな。じゃあ晩御飯ご馳走になろうか。それまではゆっくりと」「アニメ鑑賞!」「だな」「うん!」 悠人が返信を送り終えるのを待って、小鳥が少し神妙な面持ちで言った。「小鳥、ここにいてもいいのかな」「いきなりどうした」「だってお母さんとの約束は三ヶ月で、今の時点で悠兄ちゃんは小鳥を選んでない訳だし……弥生〈やよい〉さんやサーヤは勿論、一人離れて住んでる菜々美〈ななみ〉さんにも悪いと思って」 悠人が小鳥の頭を優しく撫でる。「……悠兄ちゃん?」「ここにいてていいんだよ。お前はもう俺の家族なんだ。小百合〈さゆり〉とも約束したしな。それに」「それに?」「お前のこと、一人の女の子として意識してるって言ったろ? 小鳥は三ヶ月かけて、娘として愛していた俺の気持ちを変えたんだ。大成功じゃないか。小百合もきっと、認めてくれるよ」「悠兄ちゃん……
「ふう……」 コーヒーをひと口飲み、悠人〈ゆうと〉が大きなため息をついた。「なんで悠人さんがため息なんですか。私たちの方がドキドキしてますのに」「全くだ。これではエロゲー主人公と変わらないではないか」「いえいえ、エロゲーでこの展開はないかと。選ぶ側より選ばれる側の方が、肝が座ってるんですから」「本当だね」「で、どうだ遊兎〈ゆうと〉、落ち着いたのか」「あ、ああ……」 4人の態度に、悠人は悩んで言葉を探している自分がまぬけに思えてきた。「ったく……みんな俺で遊びすぎだぞ」「だって悠兄〈ゆうにい〉ちゃん、可愛いんだもん」「家に飾っておきたいです」「遊兎が私の玩具……なかなかに興味深い」「じゃあ結論を言います」「待ってました、悠人さん」「悠兄ちゃん、頑張ってー」「悠人さん、私は信じてます」「さあ、私の胸に飛び込んでくるのだ」「ったく……弥生〈やよい〉ちゃん。俺は弥生ちゃんのこと、大好きだ。趣味の話も一番合うし、料理の腕も最高だ。そしていつも、可愛い笑顔で俺を癒してくれる。そしていっぱい俺のこと、好きでいてくれてる」「悠人さん……」「沙耶〈さや〉。俺はお前のこと……好きだよ。お前のその気高さ、強さ。時折見せる弱さも好きだ。人形のような顔立ち、そしてその綺麗な髪も大好きだ。甘えてくる時の顔も好きだ」「遊兎……」「菜々美〈ななみ〉ちゃん、大好きだ。ずっと俺を想ってくれてる一途なところ、二人分の人生を生きようとしてる強い気持ちも好きだ。いつも周りのことを気遣ってくれる、そんな優しいところも大好きだ」「悠人さん……」「小鳥〈こ
「よし、出来た」 何年ぶりかで作った、自分が作れる唯一の料理、焼飯。 テーブルに並べ、隣にサラダを置く。 自分でも驚いていた。この世である意味、一番価値がないと思っている料理に時間を割いている。ただ悠人〈ゆうと〉の脳裏に、かつての小鳥〈ことり〉の言葉が思い出され、無性に作りたくなったのだ。「悠兄〈ゆうにい〉ちゃん。ご飯を食べるってことはね、もっと生きていたいっていう気持ちと同じなんだよ。もっと食べることを楽しく思わないと、それは生きてることがつまらないって言ってるのと同じなんだよ」 * * *「ただいまーっ!」 小鳥の元気な声。悠人がドアを開ける。「悠兄ちゃんただいま。今日も楽しかったよ」 そう言って、小鳥が悠人に抱きついてきた。「おかえり、小鳥」 微笑み頭を撫でる。「え……何これ? まさかこれ、悠兄ちゃんが作ったの?」 小鳥が、テーブルに並べてある料理に目を丸くした。「そんなに驚かなくてもいいだろ。俺だって、料理のひとつぐらい出来るさ」「こ、これは……お母さんが言ってた、伝説の悠人焼飯……」「なんだ小鳥、知ってるのか」「うん、お母さんが言ってた。悠兄ちゃんが唯一作れる料理。しかもその出来は本物だって」「大袈裟だな、小百合〈さゆり〉は」「すっごく嬉しい! 小鳥、一度食べて見たかったから。でも、なんでこんなにお皿が」 その時インターホンがなった。小鳥がドアを開けると、そこには沙耶〈さや〉、弥生〈やよい〉、そして菜々美〈ななみ〉が立っていた。「みんなどうしたの?」「うむ。夕食に招かれてな」「私も同じくです」「わ、私も……悠人さんすいません、今ちょっとバタバタしてるので、遅れてしまいました」「いいよ菜々美ちゃん、ちょ
「私の部屋で少年と二人きり。中々新鮮だね」「ははっ」 小さなテーブルを挟み、悠人〈ゆうと〉が深雪〈みゆき〉の言葉に笑った。 * * *「小鳥〈ことり〉くんはコンビニかい?」「はい、沙耶〈さや〉とバイト中です。あと二時間ほどであがりなんですが」「そうか。で、わざわざその時間を狙ってここに来たんだ。世間話をしに来た訳じゃないね」「はい……小鳥と一昨日、色々話しました。小百合〈さゆり〉のことも」「小百合さんのこと、聞いたんだね」「深雪さんは知ってたんですね」「ああ。以前君が熱を出した時に、小鳥くんからね」「あの時に……」「あの時、小鳥くんの様子は尋常ではなかった。彼女が抱えているものが何であれ、一度吐き出させる必要がある、そう思ってね。 彼女のお母さん、小百合さんは元気な方で、子供の頃から病気知らずだったそうだね。その彼女が、ある日突然倒れた。ただの過労だと思っていたら、その半年後にあっさりいなくなってしまった」「……」「人は誰も、人生がいつまでも続くと勝手に思い込んでいる。死は必ず訪れるものなのに、なぜか人は、自分だけはそのルールから外れているような錯覚を持って生きている。そして死を身近に感じる経験をした時、初めて自分も死ぬんだということに気付くんだ」「確かに……俺も、いつかはこの世から消えてなくなるって、頭では分かっていますが」「まぁ、だから人は生きていけるんだけどね。いつ来るか分からない死に日々怯えていては、人生を楽しめないからね。 小鳥くん、こんなことを言ってたよ。『お母さんが余命半年だって分かった時、色んなことを考えました。そして思ったんです。お母さんの余命は、お母さんの病状から、これまで積み重ねられてきたデータから出したひとつの目安なんだ。この進行具合に治療を施したとして、生きられる平均的な時間を出したんだって。
悠人〈ゆうと〉は小鳥〈ことり〉を探し、走っていた。 何度電話してもつながらない。悠人の頭から、小鳥〈ことり〉が一人で泣いている姿が消えなかった。 コンビニに行くがいない。カウンターにいた沙耶〈さや〉が、会ってはいけないルールを破ってやってきた悠人に、そして様子に驚いていた。弥生〈やよい〉に、菜々美〈ななみ〉に、深雪〈みゆき〉にも電話するが分からない。深雪は冷静だったが、弥生と菜々美は突然の電話に驚いていた。 再びマンションに戻った時には、既に陽が落ちていた。「小鳥……」 その時悠人の脳裏に、ひとつの場所が浮かんだ。 それは、すぐ目の前の堤防だった。「くそっ、何をやってるんだ俺は! いつもなら真っ先に行ってるだろうが!」 * * * 陽が落ちた堤防を見下ろす。暗く静まりかえったそこに、小鳥の姿があった。「小鳥―っ!」 小鳥は堤防で、膝を抱えて座っていた。 小鳥の横に立つと悠人は息を整え、そして小鳥の肩に自分のジャケットをかけた。 悠人が隣に腰を下ろす。小鳥は何も言わず、膝に顔を埋めたまま動かなかった。「……小百合〈さゆり〉のDVD、見たよ」「……」「ごめんな、小鳥……俺、ずっと小鳥を見ていたつもりだったけど、何も見えてなかった。 小鳥がどれだけ寂しい思いをしてきたか、どんな気持ちで俺のところに来たのか、分かってなかった」 悠人の言葉に、小鳥はうつむいたまま首を振った。「そんなことないよ……小鳥、悠兄〈ゆうにい〉ちゃんの家に来てから、本当に楽しかったから……泣きたくなっても、悠兄ちゃんの顔を見たら元気になれたから…… ここに来るまで小鳥、ずっと泣いてたと思う。もうお母さんと話せないんだって思ったら
悠人〈ゆうと〉が目を見開く。 息が出来なくなった。変な汗が滲み、胸の動悸が早まった。 今、小百合〈さゆり〉は……小百合は何を言ったんだ……「半年前、私は職場で倒れました。過労かな、そう思ってたんだけど、聞かされた病名は『急性白血病』というものでした。検査した時には症状が進んでいて、手がつけられなかったそうです。そして伝えられたのが、余命半年というものでした。 この半年、自分の人生について、色々と考えることが出来ました。そして気付きました。私の人生って、悠人と小鳥〈ことり〉で埋め尽くされていたって。 余命を伝えられてから、急に悠人に会いたくなった。もう助からない命なら、せめて悠人の胸の中で死にたい、そう思った。でも、そう思って振り返ると、そこには小鳥がいた。 私の余命を先生から聞いたのは、小鳥でした。小鳥、随分悩んだみたいだけど、私に話してくれた。私の胸で泣いてくれました。 死ぬことは怖い。今、こうして話していても怖いです。でもそれ以上に私は、小鳥がこれからどう生きていくのか、それが心配でした。 あの子は本当にいい子に育ってくれました。父親の顔も覚えていなくて、私と母さんと三人、決して裕福ではない環境の中でまっすぐに、素直に育ってくれました。思いやりのある、優しい子になってくれました。 でも小鳥はまだ18歳、人生はこれからです。この子のこれからをずっと見守っていきたい、そう心から願いました。でも、それは叶わない。 この半年、小鳥は毎日病院に来てくれました。たまに先生の許可をもらって、病室に泊まってくれました。いっぱい話しました。今まで話せなかった私のこと、和樹〈かずき〉のこと、そして悠人のこと。 小鳥はよく泣きました。私との別れを、急にリアルに感じる時があるんだと思う。そして、私が悠人のことを本当に好きなんだって知って、悠人に連絡したい、そう何度も言いました。 でも、私は許さなかった。私はもうすぐここからいなくなる。私のことより、小鳥には小鳥のことを考えて欲しかったから。 最初